日本ＩＴ団体連盟（以下、ＩＴ連とする）の政策提言は、「物流ラストワンマイル問題の解決に向けた政策提言」と題するもので、昨今の新型コロナウイルス感染症の影響によりいわゆる巣ごもり需要が増えており、高齢者など感染・重症化・死亡リスクの高い階層を中心に通販の活用などによる生活必需品の配送需要が高まっていること、トラック業界では人手不足によりこうした需要に十分に応えきれていないこと、また、コロナ失業も増加しており、「安全性の確保と責任の明確化を前提に、個人も貨物の配送を受託できるよう制度改正を行えば、ＩＴの力により、配送需要とドライバーをマッチングさせ、上記のような社会問題の解決に繋がる」とその提言の背景を説明している。
　お中元、お歳暮などを念頭に、これまでも夏季及び年末年始の貨物輸送力の増強については自家用トラックの活用を認める通達（＊年末年始及び夏季等繁忙期におけるトラック輸送対策について）が出されていたものの、現下の需要拡大とドライバーの人手不足に追いつけないと指摘。「貨物事業者も利用できるマッチングアプリを開発する等、ＩＴの力により物流業界の生産性向上に貢献していく政策的アプローチも必要だ」と主張する。

ラストワンマイルを自家用車で
　こうした主張に基づき、ＩＴ連では、「個人が自家用車を利用してラストワンマイルの配送を行うことができるよう、道路運送法や貨物自動車運送事業法の見直しを検討すべきではないか」「安全を確保するために、荷主やマッチング仲介者の責任の明確化とあわせて、配送者の過労等の弊害を防止するため乗車時間の限定など個人の配送者が遵守すべきルールを設定する」ことを提言する。
　具体的な提案内容は別掲１および２（略）の通りで、�@個人による自家用車を使った配送事業を可能とする（届出制）�A乗務時間の限定等、個人が遵守すべき一定のルールを設ける�B荷主等が、ドライバーに上記ルールを遵守させるための責任を負う―などとし、荷主の管理責任の強化を図る。また、これら法改正を含む制度検討のため、ニーズの把握や安全上の課題抽出のため、第一段階として実証（実験）を行うことなども提案している。

生産性の向上に向けた物流改革
　これらの提言内容を規制改革推進会議として審議する根拠としては、今年10月７日に首相官邸で開かれた第１回規制改革推進義会議議長・座長会合で承認された「当面の審議事項について」で、「国民目線での規制・制度改革の迅速な実行」「新型コロナウイルス感染拡大防止及び新たな生活様式に向けた規制改革」「デジタル時代に向けた、規制全般のデジタルトランスフォーメーション」「地方を含めた経済活性化・成長路線への回復に向けた規制改革」の４つの柱が掲げられており、４つ目の柱「地方を含めた経済活性化・成長路線への回復に向けた規制改革」の中で、「少子高齢化は加速化しており、人口減少は一段と進む。これまでと同じことをしていたのでは、日本経済・社会は力を失う。国を挙げて、経済活性化のための取り組みを進め、民間セクターがこれまで以上に自由に活動を行い、イノベーティブに価値を想像できる社会にする必要がある。必要性を失った規制・制度を見直し、地方活性化を進め、人口減少、少子高齢化等の諸課題を克服し、日本経済の成長路線への回復を実現すべきだ」とアピール。具体的な取り組みの一つに「生産性向上に向けた物流改革」をあげている。
　構成委員が刷新される前の旧会議における７月２日付の答申や同答申を基にした７月17日付閣議決定の規制改革実施計画には物流改革に関する具体的な項目は見当たらず、したがって検討及びその期限の設定もない。ただ、新会議誕生直後の当面の審議事項にはこうしたことが盛り込まれており、国交省がどのような反応を示すかにもよるが（もちろんトラック業界の反応も）何らかの審議が継続されることになるのではないか。

タクシーには直接影響しないだろうが…
　同じ自動車運送事業でも旅客の分野ではあれほど、自家用有償旅客運送の拡充について微に入り細を穿つ議論が繰り返されながら、また一部のタクシー事業者から規制改革ホットラインに自家用車ライドシェア解禁容認と受け取られかねない提案があったにもかかわらず、公式には規制改革推進会議として自家用車ライドシェア解禁・合法化について当時の大田弘子議長も繰り返し、「議題としていないし、議論もしていない」と確認していたが、今回のトラック規制緩和については現行制度の規制緩和についてはパブリックコメントの募集などの経緯はあったにせよ、規制改革推進会議の公式議題に取り上げられ、ＩＴ事業者団体の提言を聴取するまでになったことを見て、あまり冷静でもいられない。
　結果がどのようになろうと直接タクシーには影響してこないだろうが、密接な関連は否定できない。今後も審議の行方を注視する必要があるだろう。（了）
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