内閣府規制改革推進室の説明によれば、タクシー関連３項目については「全タク連側からの規制緩和要望に国交省がどのよう応え、今後どのようなスケジュールで規制緩和を進めていくつもりなのかを知るためヒアリングを行った」という。業界側が望んだというテイでことは進んでいるので、業界側も大っぴらに反対はしにくい事情が生じている。
　業界側が望んだとする根拠は富田昌孝会長時代に策定された事業活性化11項目（＝タクシー業界において今後新たに取り組む事項について。のちに９項目を追加）になるが、３項目のうちはっきり盛り込まれているのは「ダイナミックプライシング」だけであり、ソフトメーター化については「相乗り運賃」や「事前確定運賃」などの実現に当たって、ソフトメーターがないと実現が困難、あるいは相当ハードルが高いという間接的な事実関係にとどまっており、ＩＴ点呼の拡大については事業活性化20項目（11項目＋９項目）の中には入っていない。こちらはむしろトラック業界、バス業界の方でニーズが高く、ことのついでにタクシー業界も意見を聞かれたといったところか。
　それはそれとして、３項目のうち、特に業界内で意見が分かれるのはダイナミックプライシングの導入検討だが、18日の全タク連総会および理事会では特段の意見の表明や質問は出ていない。一方、執行部側からは、20年度事業報告において各専門委員長のうち数人がこの問題について触れている。主なものは以下の通りだ。

＜佐藤雅一・経営委員長＞
　本年６月１日の規制改革推進会議答申では、運輸分野における規制改革推進項目として、「タクシーの利便性向上」に向けて、「ＩＴ・リモート点呼の拡大」「ソフトメーターの導入」そして「変動運賃制度のあり方についての検討」が盛り込まれ、本日（18日）、規制改革実施計画として閣議決定されたところであります。答申に先立ち、規制改革推進会議では本年２月22日、第９回投資等ワーキンググループにおいて、タクシー規制の見直しとしてＩＴ・リモート点呼の導入、ソフトメーターの導入、ダイナミックプライシングの導入をテーマに全タク連も参画して議論がなされました。
　これを契機にダイナミックプライシングの導入については国会、行政、業界、労働組合等のさまざまな場で大きな議論が展開されているところです。この議論も踏まえてさまざまな問題点を整理しつつ、ダイナミックプライシングについては、日本のタクシー事業にとって取り入れるべき点、そして難しい点などをしっかりと見極めるためにまずは実証実験を実施するということに向けて、引き続き行政と連携し、検討を続けて参ります。

＜川村泰利・技術・環境委員長＞
　ソフトメーター開発に関する動向ですが、技術・環境委としては、ソフトメーターはタイヤの回転数に基づく計量法の対象ではなく、ＧＰＳの情報及び地図データの情報を基に走行距離を計測し、運賃を算出するものとして開発を期待しているところです。国交省で2018年３月に立ち上げた新しいタクシーメーター開発等に向けた検討会を、21年２月に再開し、本年を目途に導入に当たっての課題である正確性の担保手段等の解決を図った上で制度設計を進めることとしており、わたしども全タク連では引き続き安価でより良いタクシーメーターの開発に向けて協力をしていくところです。
わたしもその委員会に出ておりますが、正確性を求めるために、いろいろなことが要求され、メーター会社としても要求があり、どうしても高いメーターになってしまうわけで、それでは意味がない。安価で良いものを作ってほしい。ということでいま折衝をしているところであり、今後のソフトメーターの動向についてもご注目いただければと思います。

＜田中亮一郎・地域交通委員長＞ （副会長兼務）
　多分、地方ではダイナミックプライシングなどは無理だと思っています。これはなぜ無理なのかということもよく考えていただきたい。いろんなところで声があがった際には、こういう理由でダメなんだよ、ということを皆さんの方から説明していってほしいと思っています。

“なし崩し改革”でいいのか？
　佐藤氏の報告は３項目について、これまでの経過に触れただけで、ダイナミックプライシングの導入の是非、良し悪し等の価値判断には触れていない。ただし、そうした良し悪しを見極めるために実証実験を実施すること、行政との連携を保ちながら検討を進めていく方針を示している。全タク連側が事業活性化20項目の中で国に要望した規制緩和事項だから、いまさら良い点、悪い点も説明するまでもないということだろうか。
　川村氏はソフトメーターの開発動向について発言しており、メーター会社とはどう安く作れるかで意見の相違がみられることがうかがわれる。ただし、本紙が川鍋一朗会長に行ったインタビューで川鍋会長自身が語ったような「ソフトメーター化を進めるため、現行の時間距離併用制運賃の仕組みを捨てる」という考え方について触れられていない。
　一方、佐藤、川村両氏がこれらの課題については実現するのが既定路線との姿勢に徹していたのに対し、田中氏はことダイナミックプライシングに関しては慎重、というよりむしろ反対の姿勢が鮮明だ。具体的な反対の理由は少なくとも事業報告の中では語っていない（これも本紙の田中氏へのインタビューをお読みいただけば詳細が語られている）。
　３氏とも専門委員長として所管事項が多岐にわたり、事業報告での各委員長の持ち時間が５分と限られていたため、言葉足らずとなったことはある程度やむを得ない。
しかし、ことあるごとに時間切れで重要事項がなし崩しで進むことはどうかと思う。全タク連の会議のあり方のみではなく、傘下都道府県協会においてもタクシー関連の規制緩和３項目についてそれほど多くの時間をかけて議論が深まっていたとも思えない。
　「大して影響ないよ」と多くの事業者が考えているのなら、それこそ本紙のいらぬおせっかいなのだが、実際のところはどうだろう。（了）
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